タテジマとファイブアローズに魅せられて

　マジック１。まるで今季最終戦のような雰囲気が試合前から甲子園を包む。この雰囲気に立ち向かうために堀内読売が起用したのは怖いもの知らずの若い選手たち。しかし若い選手にも容赦なく甲子園は襲い掛かる。

　２００２年、試合には勝ったが目の前で胴上げを見せられた屈辱。その借りを返すには勝って返すしかない。横浜スタジアムのことよりも俺たちが勝つ！！その気持ちだけだった。

　下さんは試合前は緊張している様子があったという。だがマウンド上ではそんな素振りは見せず、というよりもいつも以上に寡黙に、そして闘志を込めて投げる。

　伝播する闘志、闘魂。初回と２回、打撃陣もやるしかない打撃で先制と追加点をプレゼントする。下さんのおかげで何回も救われた今年。下さんのおかげで何回も勝てた試合。下さんのおかげで負けなかった試合。そういった気持ちを乗せて選手は戦った。

　でも殺伐としていたかというとそんなことはない。何か温かい、何か包み込むようなものを僕は画面から感じていた。

　下さんが６回を投げ終わる。するとその雰囲気が一旦消えた。春の暖かい太陽のような光で下さんは包み込んでいたのだ。

　次に出てきたのは球児くん。今日で日本新記録の７９登板数を記録。その記録の日に恥をかくわけには行かない。その気持ちで投げる速球は今日も１５０ｋｍ/hを記録した。戦いの最中に一時の安らぎをもたらすかのような、秋の静かな日差しのように甲子園を照らす。フラッシュが焚かれる中、はにかむような表情でピッチングをし、７回を締めた。

　太陽が照らす光で大地が目覚めた。火を噴くような猛打で何回もチームに勝ちを運んだ打撃陣が今日も勝利を目指して打ちに行く。相手の反撃へ向けた最後の意欲を断ち切る連打で追加点を奪う。

　８回はウィリアムス投手。いつものように闘志をみなぎらせて相手に立ち向かう。伝家の宝刀、ブーメランスライダー。情け容赦ないスライダーを武器に戦う海の向こうから来た南半球の太陽。大海原を連想させるような、夏の太陽の如く強い光でマウンドから輝きを放った１年だった。

　束の間の静けさを運ぶサザンの名曲、ＢＹＥ ＢＹＥ ＭＹ ＬＯＶＥが聴こえてくると片岡さんの出番だ。強い日差しの中のスコールのように大地に潤いをもたらす。納得の行かないシーズンだっただろうけど、若い選手と同じ時間に出て特打ちをやっている姿を見放す人はいない。今年は大阪ドームでスローガンのネバサレの代名詞のようなホームランを打ってくれた。

　そして最後は久保田くん。初めて座ったクローザーの椅子。自分の後ろには誰もいない。その覚悟が揺らいだこともあっただろう。しかしあの９月７日の死闘を経て、彼の覚悟は雪に覆われた大地に降り注ぐ冬の太陽のような輝きを放つものに変わった。

　太陽に照らされた阪神甲子園球場。眩しそうな岡田監督の表情も印象的。昨年１年間、雲に覆われていた空に風を吹かせて青空と星空を見せてくれた。男泣きをこらえた監督の言葉。今日は泣いたっていいんですよ、監督。入団から今まで、ずっとタイガースにいたんですもんね。でもやっぱり人前で涙を見せるもんじゃないのかな？

　最後に出た太陽は胴上げの輪という名の大きくて暖かくて明るい太陽。向日葵は太陽に向けて花を咲かせる。甲子園を埋めたタイガースファンという名の向日葵たちは、いつまでもその太陽に向かって手をかざし、幸せな笑顔と涙で潤んだ顔を向けていた。

そして・・・ここへ続く