タテジマとファイブアローズに魅せられて

　スピーカーが付いたトラックに乗って宣伝でもしながら走りたいくらいに素晴らしい仕事だった。

　そのとき、とてもクールな表情で吉野投手は井上を料理した。そう、左打者相手を打ち取った後に微かな、それでいてクールな微笑すら浮かべて。

　この場面でリードされていたタイガースだが、見事に流れを変えて行く。たった１つのアウト。たった１人の打者を抑えただけで。

　今までだったらここから大量失点につながってしまうパターン。ここ２戦で何かの違いを見せたタイガースの姿がドラゴンズに「おかしいなぁ？」のベールを被せて行く。

　先週末の不可解な福原投手の交代。先発の福原投手はその後遺症を引きずるかのような立ち上がり。あの日、福原投手の勝ちを消してしまった。日曜日の球児投手の涙。まだ忘れてはいない。

　福原投手の負けを消そう。この前の登板では勝ちを消しちゃった、勝ちを付けられなかったんだから今日は負けを消そう。昨日の球児くんの失点を、引き分けを消そう。

　福原投手が降板した時点で、誰が川上からあんなに点を取って勝つと予想しただろう。桧山選手は今日も♪この一打に賭け♪ていた。個人的には「あの角度」で上がった打球がフェンスを越えない現実が辛いのだが。

　アニキの四球から濱中選手のホームラン。マウンド上で呆然とする川上の投じた初球は意志を持たぬストレート。鳥谷選手は軽やかに振り切った。

　アベックホームラン。ディフェンディング・チャンピオンの意地と言うにはあまりにも出来すぎた展開だが、それを感じる隙間も無い。

　球児投手の３試合か？連続失点が心配だが、本調子にはおそらくまだ遠いものと思われる姿をそう思わせない内容で抑えきる。これが抑えの重圧というやつ。彼は今、抑えとして初めてその重圧を感じ始めている。自分の後ろに誰もいない。最後の投手として１点でも取られるわけには行かない試合もある。

　日曜日の涙は球児くんから何かを放出させたけど、チームは何かを受け取った。ファンも何かを受け取った。そして何かが始まった。何かが動き始めた。

　３タテは出来なかった。でも２勝１分。まだまだ猛虎は死せず。ドラゴンズに甲子園で勝てることを証明した。きっとドラゴンズはナゴドでは負けないと思っているだろう。だから次はナゴドでも勝ってくるしかない。

　諦めない心で掴んだ勝利。あの鳥谷選手がお立ち台で笑いをガマン出来なかったくらいのナイスゲーム！！

　落日の猛虎は見たくない。諦めることを捨ててきた猛虎への追い風は、諦めることを忘れた連中の情念が吹かせているのだから。