思いがさせたもの(今日は呼び捨てでスイマセン)
昔から読売には負けたくなかった。その反骨心が彼を支えてきた。そしてその男が最前線で戦っているのだ。
いつもだったらどんな試合展開であろうとも立ち上がらない。
居場所はいつも決まっていた。ベンチの前列のホームベースに近い場所。それが彼の定位置だった。
特別な試合だった。意識していなくとも体が分かっていた。グランドで戦う選手たちも平常心とは違っている。何か違うものがそこにあり、そしてそれを感じていた。
でもそれは相手も一緒だった。普段とは違う空気の中で試合を分けたのは、その中でも少しだけ出た“普段”だった。
タイガースの野球はチャンスを作って確実にモノにする野球。読売は反対に、それがチャンスであろうと無かろうと“大物”で試合を持ってくる。しかしシーズン後半は阪神から学んだようにチャンスを作ることを覚え始めた。
その相手に対し、今日のタイガースはチャンスを作り続けた。結果的に押し出しの1点だけでは勝てなかったが、勝てるチャンスは試合が進むにつれて多くなっていた。
あれほど思い切り振っていた打線が振れていない。怯えたわけではないだろうが、シーズン終盤にまとわり付いた硬さは易々と取れるものではなかった。
それが分かっていたかどうか知らないが、男は立たずにはいられなかった。その姿がどれだけ伝わるものか分からないが立たずにはいられなかった。
自らも選手として優勝争い、そして日本一を経験しているからこそ伝えたいことがあった。
口下手で表現が苦手だから言葉よりも体で示した。「お前たち、立ち上がれ!前を向け!そして戦え!」と。
男が立ち上がったのは試合が中盤に入ってから。そしてそれからチームはチャンスを作り始めた。
地力優勝が消えた。相手にマジックが点灯するとはそういうことだ。でも優勝が決まったわけではない。微かな可能性であろうともタイガースに逆転の可能性だけは残されている。落胆する暇なんて実は無いのだ。強いチームであることを証明するために残り試合に勝負を賭け、全て勝たなければならない。試合は終わってもシーズンは終わってないのだ。
男は背中で語る生き物と言われる。だが今夜、その男は背中ではなく横からも前からも戦う姿を全面に見せていた。普段は隠して決して見せない、秘めていた戦う姿を見せていた。
今日の試合は終わった。この事実に関する落胆はここまでくると俺にはそれほど無い。あるとすれば明日職場の読売ファンの顔は見たくないくらいなものだ。明日は1日休んで気持ちを休めるのだが、それすらも要らないくらい不思議な気持ちになっている。
全力を出し切ったから?そうではない、タイガースの全力の姿はこんなものではない。
怪我人などが続出する中で、ここまで首位を守り続けたから?それも事実だがそうではない。
男は立ち上がっていた。立ち上がらずにはいられなかった。阪神タイガースの人間として、他球団のユニフォームを着たときでもそれを忘れなかった男として、この試合で自分が出来ることだったら何でもやってやろう!という気持ち。グランドで戦っているのは選手だが「お前らだけやない!ワシもや!」を伝えたい、口下手な男の精一杯の愛情がそこにあったのだ。
「思い切りやれ!責任を取るのはワシや!!」
口では「先発がなぁ・・・」と言っても、責任を取るのは自分であることを男は一番分かっているのだ。
男は立ち上がっていた。ビハインドでも最後まで攻撃中は立ち続けていた。それもベンチの最前列から片足をグランドにかけて、前のめりになって。俺にはそれだけで気持ちが充分伝わってきた。何人の選手が気づいただろう。でも俺にはテレビ越しに、想いが充分伝わってきた。
勝ちたい気持ちを最後まで、選手だけじゃなく自ら最後まで。それがどう思われようとも男は立ち上がらずにはいられなかった。自らが心を折らずに最後まで、選手と共に戦っていたのだ。
男の名は岡田彰布。阪神タイガース監督である。
いつもだったらどんな試合展開であろうとも立ち上がらない。
居場所はいつも決まっていた。ベンチの前列のホームベースに近い場所。それが彼の定位置だった。
特別な試合だった。意識していなくとも体が分かっていた。グランドで戦う選手たちも平常心とは違っている。何か違うものがそこにあり、そしてそれを感じていた。
でもそれは相手も一緒だった。普段とは違う空気の中で試合を分けたのは、その中でも少しだけ出た“普段”だった。
タイガースの野球はチャンスを作って確実にモノにする野球。読売は反対に、それがチャンスであろうと無かろうと“大物”で試合を持ってくる。しかしシーズン後半は阪神から学んだようにチャンスを作ることを覚え始めた。
その相手に対し、今日のタイガースはチャンスを作り続けた。結果的に押し出しの1点だけでは勝てなかったが、勝てるチャンスは試合が進むにつれて多くなっていた。
あれほど思い切り振っていた打線が振れていない。怯えたわけではないだろうが、シーズン終盤にまとわり付いた硬さは易々と取れるものではなかった。
それが分かっていたかどうか知らないが、男は立たずにはいられなかった。その姿がどれだけ伝わるものか分からないが立たずにはいられなかった。
自らも選手として優勝争い、そして日本一を経験しているからこそ伝えたいことがあった。
口下手で表現が苦手だから言葉よりも体で示した。「お前たち、立ち上がれ!前を向け!そして戦え!」と。
男が立ち上がったのは試合が中盤に入ってから。そしてそれからチームはチャンスを作り始めた。
地力優勝が消えた。相手にマジックが点灯するとはそういうことだ。でも優勝が決まったわけではない。微かな可能性であろうともタイガースに逆転の可能性だけは残されている。落胆する暇なんて実は無いのだ。強いチームであることを証明するために残り試合に勝負を賭け、全て勝たなければならない。試合は終わってもシーズンは終わってないのだ。
男は背中で語る生き物と言われる。だが今夜、その男は背中ではなく横からも前からも戦う姿を全面に見せていた。普段は隠して決して見せない、秘めていた戦う姿を見せていた。
今日の試合は終わった。この事実に関する落胆はここまでくると俺にはそれほど無い。あるとすれば明日職場の読売ファンの顔は見たくないくらいなものだ。明日は1日休んで気持ちを休めるのだが、それすらも要らないくらい不思議な気持ちになっている。
全力を出し切ったから?そうではない、タイガースの全力の姿はこんなものではない。
怪我人などが続出する中で、ここまで首位を守り続けたから?それも事実だがそうではない。
男は立ち上がっていた。立ち上がらずにはいられなかった。阪神タイガースの人間として、他球団のユニフォームを着たときでもそれを忘れなかった男として、この試合で自分が出来ることだったら何でもやってやろう!という気持ち。グランドで戦っているのは選手だが「お前らだけやない!ワシもや!」を伝えたい、口下手な男の精一杯の愛情がそこにあったのだ。
「思い切りやれ!責任を取るのはワシや!!」
口では「先発がなぁ・・・」と言っても、責任を取るのは自分であることを男は一番分かっているのだ。
男は立ち上がっていた。ビハインドでも最後まで攻撃中は立ち続けていた。それもベンチの最前列から片足をグランドにかけて、前のめりになって。俺にはそれだけで気持ちが充分伝わってきた。何人の選手が気づいただろう。でも俺にはテレビ越しに、想いが充分伝わってきた。
勝ちたい気持ちを最後まで、選手だけじゃなく自ら最後まで。それがどう思われようとも男は立ち上がらずにはいられなかった。自らが心を折らずに最後まで、選手と共に戦っていたのだ。
男の名は岡田彰布。阪神タイガース監督である。