Mr.Tigers それは成績だけではなく、プレーやチームへの影響といった存在そのものがタイガースの象徴となり得る選手への最高の称号と僕は思っている。それは歴代のMr.Tigersを見ても歴然としている。良くも悪くもチームを、チームの責任を背負う選手たちだった。
しかし今ここで、今までとは毛色の違う選手がMr.Tigersに『王手』をかけている。その名は『今岡誠』。
地元出身、PL学園から東洋大学、逆指名でタイガース入りという過程は、阪神タイガースという伝統あるチームにはこれ以上無い経歴だ。
入団後は早熟なのか何なのか、伸び悩みなのかどうなのか?とにかくつかみ所の無いという感想を持った。事実、タイガースもつかみ所の無い成績と迷走する戦いを繰り返した。
不思議なことに彼の成績とチームの成績は連動する。それは阪神タイガースが持つ意志と、阪神甲子園球場に棲まう何かが見えないところで「よっしゃ!この球団、しばらくこの男に預けよう!」と打ち合わせでもしたかのようだった。
「ポジションに応じて求められる仕事をするだけ。」彼は涼しげにこう言う。しかし求められたポジションで求められた結果を出すことがどれだけ「あたりまえではない」ことか。涼しげな中に見せる気の強さが彼には確かにある。一時は凡退しても悔しさを見せないところから無気力だとか、ゼブラだとか言われたけど彼は「いや、悔しさは人前で見せるものじゃ無いっすから。」という。事実、布団の中で悔しくて眠れない日もあったと後日語っているじゃないか。一振りに込める燃える闘魂は打席で見せるばかりではない。
その彼がスタメンセカンドというポジションを固定し得た2002年。彼は打率3割を超える。チームは4年も続いた最下位を脱出した。2003年は1番という打順に完全固定。右打者としては久しぶりの首位打者というタイトルを獲得する。そして18年ぶりのリーグ制覇へとチームは突き進んだ。
2004年、いくつかの打順を経て彼は今年、5番打者として打点王に輝く。その数字は今年の打率からは考えられない良い意味で常軌を逸脱した前代未聞の数字だった。もちろん彼の前を打つ選手のプレーの影響もあるが、満塁時の打率が5割を超えるなんて考えられない。
与えられた場所で期待以上の数字を残す。朝のテレビの特集で今岡選手の息子さんが「パパ、ホームラン打ってぇ。120本!」と言っていたが、それに専念すればとんでもない本数を打ちそうな男にも見える。事実、これでホームラン王でも取れば違う年であっても三冠王のタイトル全てを手中にする。これだって誰にでもできることではない。
2005年は指の怪我などあったが全試合に先発出場した。選手会長としての自覚。それは成績でもチームを引っ張る姿に表れる。自分で望んでいようといまいと周りが彼を、阪神甲子園球場が彼を、阪神タイガースの意志が彼を押し上げようとしているように見える。そしてそうなった時に彼は「Mr.Tigers」というポジションで、ポジションに応じた活躍を見せるはずだ。
チーム内で年齢とともに進化しているのは金本選手や下さんだけではない。早熟にして大器晩成。今岡選手のピークはまだまだこれからやってくる。
甲子園の申し子。と言われる選手が時々現れる。
主に高校球児を指し、何人もの選手が形容された言葉だ。最近では松坂大輔投手かもしれないが、プロにおいては今岡誠。今、誰よりも阪神甲子園球場と阪神タイガースという名前に愛されている選手は彼のことだと僕は信じている。