タテジマとファイブアローズに魅せられて

　先週も書いたように、僕の職場は家からチャリンコで１０分弱。でもずっと前、１年間の期間限定ってことで電車で３０分離れた職場に派遣されていた。自分で希望したとはいえ、朝が早くなるというのはテレビ観戦に困ったものだったことを思い出す。


　職場の連中は無責任にも「電車の中で、いい出会いがあるんじゃないの？」なんてことを言っていたけど、そうそうよくできた話があるわけじゃなく、何事もないまま１年が過ぎようとしていた。

　しかし何事もないまま終わるわけには行かなくなった（っていうか、終わっても良かったんだけどね）。

　電車で通勤して初めて気付いたのは、毎朝同じ電車で同じ車両に乗る人が意外に多いことだった。

　僕の乗車駅は電車の連絡が多い駅で、同じ方面に行く電車でも僕が乗る電車のほうが先に出発するダイヤなのでかなりの人が反対側のホームから乗り込んでくる。その中に、美人かどうかは微妙だが、センスの良い着こなしをしている方がいた。カッコイイっていう感じの人だ。真冬でもスカートで少し膝が出ている。僕は勝手に「膝小僧」と呼んでいた（といっても言う相手がいない）。

　別に最初は「あぁ、いつもの子だ。」という程度だった。それ以上もそれ以下もない。

　４月から始まった電車通勤。季節が変われば車窓から見える景色も彩りも、少しずつその姿を変えてゆく。気がついたら年が明け、もう２月になっていた。なんかこのままってのも寂しいかなぁ？１回話をしてみたいものだなぁ。という出来心からついつい手が伸びて「すいませぇん！もうしませぇぇん！！」と泣き叫んだ・・・・・いやいやいやいや、痴漢じゃないですか？！それじゃ！！

　そうじゃない！！何かこのままじゃつまんないな・・・って思って、「そうだ！連絡先だけでも交換してもらえないかなぁ？」と思ってしまった。そう、それは本当に「思ってしまった。」という言葉がピッタリな出来事だった。

　そこから僕の恥ずかしがりやな（あれ？）気の小さい（あれれ？）・・・・・すいません、恥ずかしがり屋でも気も小さいわけでもなく・・・とにかくクソ度胸が・・・色々考えた。やらずに後悔するなら、やっとけ！！というやつだ。

　朝の通勤で呼び止めて話をするのか？電車内では相手にも恥ずかしい思いをさせてしまう。待ち伏せするのも変だ、凄く変だ、怪しい。持っている鞄に放り込んでやろうか？それじゃ誰だかわからない・・・・・放り込むのは打球で充分だ。ってことで考えに考え抜いて、メモを渡すことにした。渡す場所は相手が降りる駅のホーム。次の電車もすぐ来るし、俺が少しくらい遅刻しようが、俺が駅のホームで恥ずかしい思いをしようが、俺に跳ね返る分にはいいんじゃないか？と思って、そう決めた。

　でも問題は、ここまで書いたのは『僕自身の満足』のため。でも相手にしてみれば？？？もしかしたら乗る電車を変えるとか、僕のせいで相手に色々な迷惑をかけるかもしれない。自分の満足のために相手に嫌な思いをさせやしないか？それが一番心配だった。

　多くの人が忘れているのは、恋愛ごとは相手がいて初めて出来るものということ。どうすれば相手に伝わりやすいか。どうすれば相手が「Ｙｅｓ」と言いやすいか。これを真剣に考えないと、先天的にモテる人じゃない限りは好結果にはつながらないことが多いし、一人芝居で終わることになる。自分が主役になるんじゃなくて、相手とね、２人でね。

　正直言って何度も「やめといたほうがいいんじゃないか？」と思った。それでも日は過ぎる。ルーチンワークの毎日は情け容赦なく過ぎて行く！！

　３月中旬になり、僕の派遣が解除されて新しい所属が発表された。もう電車に乗って通勤するのは残り半月。「やるか。」そう思った。一応、自分なりに考えて、相手に迷惑をかけにくい方法を考えた。でも相手が電車に乗る車両を変えてしまうかもしれないという、そのあたりで相手に迷惑をかけてしまう可能性だけは否定できなかったけど。

　長くもなく・・・というか、かなり短い文章をメモに書くことにした。覚えてないけど「迷惑じゃなかったら連絡先を交換してください。」くらいしか書かなかったと思う。もちろん、僕のほうの携帯のアドレスとか番号とか書いておいた。そしてその日は来た！！


　ふぅ・・・ちょっと休憩。








　渡したのは木曜日だった。それだけははっきり覚えている。相手の降りる駅に電車が着く。相手に続いて僕も降りる。緊張しながら「すいません、これ読んでください。」と言うつもりが、言いかけたところで「あっちへ行け！変態！！」と言われ・・・・・ない。「すいません・・・」と言ったかどうかのうちに、まるでその辺で配っているティッシュを貰うかのように相手は黙って持っていった。。。。。あ、どういう形であれ受け取ってもらえたぞ。まだ電車のドアは開いている。慌てて電車に戻る。「んぁぁぁぁぁ！緊張したなぁ。。。」　　もう１日の仕事が終わった感じがした。

　翌朝、相手の姿は無かった。そりゃそうだろう。でも僕はスッキリしていた。心に引っかかっていることといえば、「相手に悪いことをしたな。」という点だった。それが本当に申し訳なかった。そこだけは本当に、前でも書いたけど自分が満足しただけじゃねぇのか？！ってのが引っかかっていた。

　でも話はこれで終わらなかった。何もないまま土曜日を過ごしていると携帯に警察から電話が・・・・・かかってこない。そうじゃない！携帯にメールが入っていた。知らないアドレス。メモを渡した相手からだった。「な、な、な！！なんですとぉぉぉ！！」・・・・・しばらく呆然とした。嘘のようだけど本当のことだった。わーわーわーわーわーすげぇ！！しばらくメールを何度も読み返していた。

　それからの２週間はあっという間だった。毎朝通勤が重なる区間の１４分間だけど一緒に通勤した。仕事帰りにお茶をしたこともある。偶然だけど、相手の方も３月末で転職するため電車通勤は終わりということだった。そして相手の方の転職先が僕の職場と関連の強い所と知って更に驚いた。

　なにを話したのか今では覚えてないけど「どうして返事をくださったんですか？」と聞いたときに、相手の方が「驚いて、周りの人に相談したら『相手が（僕が）正面から声をかけてきたんだから、あなたもちゃんと返事をしないと失礼ですよ。』と言われましたので。」ということだけ覚えている。周りの方、ナイス！！　そして受け取ってくれたのは・・・電車の中でウトウトしていたので降りた途端、なにがなんだか分からないうちに手が出てしまったということだ。　＿｜￣｜○

　４月に入り、僕は新しい部署へ、相手は新しい職場へ。忙しい中で自然に連絡はなくなり、最後はなんとなく予想通り？「お友達で」終わった。あっはっはっはっは・・・・・はぁぁぁ。もちろん今は友達でも何でもない。連絡先も知らない。だってさぁ、こっちはお友達以上を望んでいるけど相手からは「お友達」ってことは実質「ダメ」ってことだったんだよねぇ。

　でも自分でもああいうことができるんだなぁ。と思ったことは事実だし、俺も捨てたもんじゃねぇなぁ・・・・・と少し勘違いしてごめんなさい。今でもあれは俺じゃないと思っている。あのときは・・・「んあぁ、俺の中に少しでも女の人にモテる部分があれば、それを全部使いたいなぁ！」って思ったもんだ。あまりモテるタイプじゃない僕なだけに、珍しくうまく行きかけて浮き足立ったというのもある。緊張しすぎたもんなぁ。そういう意味じゃ電車男ってすごいわ。

　今思い出しても、あとにも先にも、あの日は今まで生きていた中で一番緊張した日。就職試験の面接でもあれほど緊張しなかった。こんなことなら昇進試験を１０回受けた方がいいよ！って思った。もちろん、次にあぁいうことをやることは・・・・・無い！あるわけない！もうできない！！とにかく変態扱いされて警察に突き出されなくて良かったと心から思った。それだけじゃ！！もう何年も前の話だし。

　これを読んで真似してみようと思った方がいたら、本当に良く考えた方がいいです。っていうか真似する人はいないか。僕の場合は、本当に運が良くて相手がしっかりした人だっただけです。マジでこれはお薦めしにくいんです。相手次第では変態扱いでしょうし。

　でも、それでも、わかっていても自分から動かなきゃ、僕のような平凡な男には何も無いのも事実なんだよねぇ。

　この記事を読んで少しでもドキドキした方！記事の中の僕に自分を置き換えてしまった方！そう、そこのあなた！！好きな人には、分かりやすくはっきりと気持ちを伝えたほうがいいですよ。嫁さんや彼氏・彼女がいるそこのあなた！とりあえず「好きだよ。」って言ってみ？いってみよ〜！！ほ〜れ、いけいけぇ！！　で、結果を記事にして教えてください。


追記：この記事を読んで、「真似をしたら変態扱いされて大失敗した！！」という結果が出てもそれは自己責任でお願いします。私は責任取りません。人のせいにしちゃいけません。